天目の故郷建窯に孫建興先生を訪ねて
日本の国宝や重要文化財、大名物となっている曜変天目茶碗、油滴茶碗そして禾目茶碗。それらは12-13世紀の中国、南宋時代、建窯で焼き上げられた名品です。
建窯は現在の福建省南平市の建陽というところにかつてあった古窯で、20世紀に大規模な窯跡が発掘され、現在も調査が進められています。
一度に10万個以上も焼いたであろうとされる窯跡からは、天目茶碗の破片が多く掘り出されていますが、無論完成品は見つかっていません。 
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現在、南平市で天目茶碗、特に曜変天目の研究と再現に挑んでいる陶芸家・孫建興(Sun JianXing、そん・けんこう)さんを1月に訪れました。孫さんは2006年に中国陶瓷工芸美術大師に認定されている、日本の人間国宝にあたる陶匠です。
成田から飛行機を乗り継ぎウーロン茶で有名な武夷山(ぶいさん)空港に到着、孫さん自身が出迎えてくれた。昨年11月に開通したばかりの高速道路を180kmほど走ると南平市の中心部に入る。数年前に訪れた時の、舗装も途切れがちの道で南平へと向かった頃と比べると隔世の感がある
市内のホテルに宿をとり、翌日孫先生の工房を訪ねた。
南平は福建省の象徴でもある「ビン(門がまえに虫が入る)江」という大河の上流に位置する。 
ビン江は下流の福州(福建省の省都)を通り台湾海峡へと流れている。このビン江を下って多くの天目茶碗が商われていったに違いない。
南平は起伏の豊かな地形で、孫さんの工房「南平星辰天目陶瓷研究所」は後ろに小高い山のある市街を見渡す高台にあります。
今回はホームページで制作風景を紹介したいということで、撮影させて頂きました。
[制作風景]
1.土は建窯跡から採取し、寝かしたものをつかいます。  2.土を練ります。(腰の強い麺が打てそうです)  3.轆轤(ろくろ)で成形します。 
4.一次乾燥です。  5.へらで削り大きさ、形、薄さを整えます。 6.二次乾燥です。天目の種類によって胎土は違います。
7.屋上にある釉薬置き場。調合が決め手です。  8.たっぷりと釉薬を掛けます。  すぐ乾いてしまうので熟練の思い切りが必要です。 
9.いよいよ窯入れです。ひとつの窯でひと碗です。  10.電気窯を使うのは窯内の温度の管理がしやすいため。焼成温度は1,350度くらいとしている。  11.松など油分の多い樹木を途中、投入する。窯内の酸素がなくなり、還元焼成となる。このタイミングが焼き上がりを決める。
12.完成(茶碗) 
見込みの曜変も美しいが、側面の景色も面白いですね。
13.完成
本来は12.で完成ですが、あらかじめ寸法を聞いて日本で作って持参した桐箱の蓋に箱書きをしてもらいました。日常、毛筆など使わないので大変緊張しながら一点ずつ揮毫していただきました。孫先生、辛苦了!(お疲れ様でした) 
孫建興さんの一人娘、孫莉さんが助手をしています。昨年まで大学で日本語を勉強していたので、日本からの来訪者は大いに助かる。やはり天目茶碗は日本人に一番愛されている茶碗。孫莉さんが後継者として鍛錬を積まれるのはとても素晴らしいことだと思います。  

工房の入口にて孫建興先生と孫莉さん)


【その他の作品】 建窯では曜変、油滴、禾目以外にも多くの破片が発掘されており、孫建興さんはそれらの研究、復元にも取り組んでいます。
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日本でも人気の油滴天目
「寿山福海」の文字も目出度い銀彩文字天目(武夷山近くで破片が見つかっている) 
釉色が渋い黄天目(日本では珠光天目が知られている) 
鉄の銹釉が味わいの鉄銹斑(てっしゅうはん)天目
絢爛豪華な金虹彩天目
灰釉が独特の表情を見せる虹彩天目
鳥の文様がユニークな鷓鴣(しゃこ)斑天目
古い窯跡から出土した鷓鴣斑の破片

中国陶瓷工芸美術大師
孫建興(Sun JianXing)年譜
1952年 中国福建省泉州市に生まれる
1972年 福建省泉州市徳化県紅旗瓷厰にて釉薬を研究する(〜1975)
1978年 西北軽工業学院(現陝西科技大学)陶瓷専攻科卒業
    福建省軽工業研究所にて建窯建盞復刻研究につく(〜1980)
    福建省科技進歩大会3等賞受賞
1981年 福建省建陽軽工業局にて陶瓷工芸を担当(〜1985)
1982年 古代陶瓷科学技術国際シンポジウム会員参加
1985年 福建省廈門大学で学ぶ(〜1986)
1986年 福建省南平陶瓷研究所の工程師を務める(〜1990)
1990年 中国古陶瓷研究会に参加(以後毎年)
    福建省南平星辰天目陶瓷研究所の総工程師となる
1992年 古代陶瓷科学技術国際シンポジウム会員参加
    景徳鎮陶瓷学院学報に『供御鷓鴣(しゃこ)斑天目の新発見』を発表
1993年 中国古陶瓷研究会会員
    鷓鴣斑天目が福建省科技成果鑑定において国内最高水準とされる
    兎毫盞(禾目天目)がドイツ国際陶瓷フェスティバルで三等賞受賞
1994年 宋時代の天目茶碗復刻研究で南平市人民政府科技進歩一等賞受賞
1995年 宋時代の建盞系列研究で福建省人民政府科技進歩二等賞受賞
    古陶瓷科学技術国際シンポジウムで『虹彩天目建盞の釉研究』『大型官窯建盞』『発掘片から見る油滴天目建盞の特質』『銀藍色禾目と白色木葉の構造』などの論文を発表。虹彩天目茶碗を展示
1996年 福建省南平市科学技術協会副主席
    中国古陶瓷研究会'96建陽年会および学術討論会に参加、作品展示
    中国古陶瓷研究会特集『福建文博』に『建盞古今話』発表
1997年 福建省廈門大学研究科に学ぶ(〜2000年)
1999年 古陶瓷科学技術国際シンポジウムで『類曜変天目茶碗の研究』発表
2000年 来日、大阪市立東洋陶磁美術館と京都龍光院で国宝の茶碗を見る
    福建省南平市人民対外友好協会理事就任
    中国古陶瓷専門委員会常務委員就任
2001年 ヨーロッパ視察旅行
2002年 油滴天目、禾目天目を中国歴史博物館(現中国国家博物館)に収蔵
    「禾目天目茶碗」「油滴天目茶碗」台湾鴻禧美術館に収蔵
    来日、東京静嘉堂文庫、大阪藤田美術館ほか見学、瀬戸素山窯長江秀利師と交流
2003年 星辰陶瓷研究所をNHKが取材『七彩之光』放送
    朝日新聞が取材、韓国KBSが『陶瓷之路』制作放送
2005年 「世界陶瓷双年展」(韓国)で講演
    中国古陶瓷科学技術国際シンポジウムで『宋元南平の灰被天目茶碗研究』発表
2006年 中国陶磁工芸美術大師に認定される
2007年 NHK『関口知宏の中国鉄道大紀行』で放送
2008年 中国“海のシルクロード(海絲)杯”美術陶瓷作品展にて「曜変天目茶碗」が金賞受賞 

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